昨年2023年10月13日に池田書店から出版した手話の本。
「はじめてでも そのまま使える 手話会話フレーズ228」が発売6か月で、おかげさまで1万部を超え、累計部数12,500部となりました。本当にありがとうございます。
この本は、【人間に上下がないのと同じように、言語にも上下がない】という信念に基づき、「日本語対応手話」と「日本手話」を併記して解説した、手話の世界で初めての本です。
私が2008年11月に開講した「聴覚障がい者のための手話でおこなう日本語講座には、ろう者・難聴者・人工内耳装用者など様々な生徒さんが通っていらっしゃいます。
その方々からご相談を受ける中で、「日本語対応手話」と「日本手話」というのは、それを使う人の母語の違いによるもので、どちらが良いとか悪いとかいう問題ではないと、ハッキリ確信するようになりました。
私は26歳で日本語教育能力検定試験に合格し、日本語教師として欧米のビジネスマンの方々に日本語を指導させていだきました。日本語を指導する際に、日本語と他言語を比べて優劣をつけたり、「日本語を習得するために母語を捨てろ」だなんて、そんな間違った考え方はいっさい持ちません。
「手話は言語だ」といいながらも、手話学習の現場は英語教育や日本語教育とはあまりにかけ離れていて未熟です。
例えば、中学・高校の英語科の教員免許を取得するためには、通常の講義のほかに多くの単位を取る必要があります。
「英語学入門」「英語音声学」「英米文学」「英語コミュニケーション」「異文化間コミュニケーション」「「教職概論」「教育原理」「教育心理学」「教育制度」「英語科教育法」「教育方法学」などで、さらに教育実習が必要です。
日本語教師になるためには、現在3つの方法があります。
① 日本語教育能力検定試験に合格すること
② 大学・大学院の日本語教育課程の修了
③ 420時間の日本語教師養成講座の修了
いずれにしても、日本語の「文法」「語彙」「音声」「表記」「言語教育法」「日本語教育の歴史と現状」「言語習得・発達」など言語教育に必要な様々な専門の知識を学んでから、外国人学習者の方に日本語の正しい指導をおこないます。
ところが手話の世界は、残念ながら英語教育や日本語教育のように専門性の高い分野になっていません。
「手話通訳者だから教える」「地元のろう者だから教える」
「もっとろう者と交流しなさい」 これが現状です。
日本語教育の世界から手話の世界にやってきた私には、納得できないことばかりでした。
私は、統語論の考え方から「日本語」と「日本語対応手話」と「日本手話」の構造を調べ、対照言語学の考え方から「日本語」と「日本語対応手話」と「日本手話」の違いを解説するという正しい言語の本を作りたくて、連日深夜に原稿を書き、校正して完成したのがこの本です。
「手話を理知的に学びたい」と思っていらっしゃる学習者の皆さまのお役に立てば幸いです。